前回の記事では「DX」 についての概要的なことを書いてみました。

今回も前回に引き続き「DXとは」について見ていきたいと思います。主に「DXはどのように進めていくの?」とか「DX推進に必要な人材はどんなスキルの人?」みたいな内容になります。
DXとデジタルガバナンス・コード
経済産業省では、企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を2020年11月9日「デジタルガバナンス・コード」に取りまとめました。
さらに2年後の2022年9月13日には、「コロナ禍を踏まえたデジタル・ガバナンス検討会」を開催し、同検討会の議論を踏まえ、必要な改訂を施した「デジタルガバナンス・コード2.0」(PDF) を取りまとめています。
また、経済産業省では、中堅・中小企業等のDX推進を後押しするべく、DXの推進に取り組む中堅・中小企業等の経営者や、これらの企業を支援する機関が活用することを想定した「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」の取りまとめも行っています。こちらも「デジタルガバナンス・コード2.0」の改訂により、「中堅・中小企業等のDX促進に向けた検討会」を開催し、同検討会での議論を踏まえて、「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」(PDF) に改訂されています。
まずは、DXを実践するにあたって基本的な資料ですので、最初の段階で一読されることをオススメします。
DXの進め方
DX実現に向けたプロセス
ここでは、上記にも挙げた、経済産業省の「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」で示されている内容を引用して説明します。

[引用元]「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」(PDF) P20 より
上図は、企業のDX推進を4段階のプロセス(ステップ)に分けたうえで、それぞれのプロセスで実施する内容と、それを実施するために必要な人材を示しています。
以下に、それぞれのステップについて見ていきます。
DX実現のための最初のステップとなります。
このステップの主たる担い手となるのはCEO/CIO/CDXOなどの経営者・経営トップの人材となります。
DXは経営者の「DX推進に取り組む」という強い意思決定からスタートします。経営者は企業のパーパス(存在意義)を明確にした上で、5年後・10年後どのような企業を目指す(経営ビジョン)かを描き、現状との差を埋めるための課題を整理し、これらの課題解決に向けて社内外の関係者を巻き込みながらDX実現に向けた経営の仕組みを構築していくことが求められます。[DX戦略の立案]
これに伴い、DX推進チームの設置や推進体制の整備を行っていきます。[DX人材の配置]
これらを経営者のみで行うことが困難な場合は、外部視点を持つビジネスアーキテクトやITコーディネータなどに協力を求めることも重要です。
CEO/CIO/CDXO
ビジネスアーキテクト
前ステップで、経営者はDX推進を決定し、会社の目指す未来や経営戦略の策定を行いました。
次のステップは、DXを推進するために会社全体を巻き込んだ変革準備を行います。
経営者は社員にDX推進の必要性を説き、その変革を受け入れてもらうことで、全社的な協力体制を構築する必要があります。
このステップから、アナログデータのデジタル化とそれを利用したツールの導入[デジタイゼーション]など取り掛かりやすいところから着手するなど「変革」のファーストステップを実行することで、社員の意識改革を行い、DXの実現に向けて社内全体を活発化させることが重要です。
CEO/CIO/CDXO
ビジネスアーキテクト
社内のDX推進担当者
前ステップにより、社内全体がDXの実現に向けて進み出しました。ここから前ステップで構築したDX推進の土台を活かしつつ本格的な推進を行っていきます。
デジタル化したデータがスムーズに活用できるように、業務プロセスを徹底的に見直します。見直すにあたっては現状分析が必要です。会社組織にある課題、現状のシステムの課題を洗い出し、これらの課題をいかに解決するかを考えます。
業務プロセスを見直したら、新たなシステムを構築し、課題に対する対応を行います。[デジタイゼーション・デジタライゼーション]
このステップでは、社内にある程度のIT分野における知識を有した人材が必要となります。
中小企業の多くは、システム構築をITベンダーに外注することになると思われます。しかし、ITベンダーに丸投げでは、思い描いたシステムが構築できなかったり、想定以上の予算がかかるなどの失敗に見舞われる可能性があります。
そのような事態にならないよう、DX推進室に社内のIT人材を配置し、ITベンダーとの協力体制を構築することが必要となります。また、外部機関のサポートを受けることで、不足するスキルやノウハウを補いつつDXを推進していくことも重要です。
社内のDX推進担当者
データサイエンティスト
ソフトウェアエンジニア
サイバーセキュリティ
前ステップまでに、業務プロセスの改善や新システムの導入は完了し、組織や会社全体におけるビジネスモデルが大きく変わりました。
自社のIT化がDX推進の過程で成功したのであれば、顧客や業界にその新たな価値(成功体験やDX推進の成果)を提供し、サプライチェーン全体へ変革を展開します。[デジタルトランスフォーメーション]
そしてさらなる改善を継続・繰り返し進めていくことでDXを拡大していきましょう。
DXは、1度の試みですぐにうまくいくものではないため、長期的な視点を持って、試行錯誤しながら改革を達成できるよう努力を続けていくことが重要です。
社内のDX推進担当者
デザイナー
ソフトウェアエンジニア
サイバーセキュリティ
DX戦略の立案
DXを成功に導くには、企業理念や経営ビジョンに基づくDX戦略の立案が重要となります。ここでは経済産業省が2020年12月に公開した「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) で紹介されているレポートの内容から、「DX戦略」立案の目的やプロセスを見ていきます。
※2021年8月には『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』 も取りまとめています。
DX戦略とは
DXは、企業が顧客や社会のニーズを基に、デジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスモデルを変革することで、新たな価値を創造することを目的としています。DX戦略とは、DXを推進するための計画や方法を示したものです。
「経営」と「IT」の2つの視点から戦略を立案
経営者は、経営とITが表裏一体であるとの認識を持った上で、次の二つの視点に基づいてDXに向けた戦略を立案する必要があります。
- デジタルを”使いこなす”視点
-
市場には既に多様なデジタルサービス・製品・技術が提供されています。それらを活用することによりどのような価値(目標達成に向けた制約の緩和)が享受可能となるか、という視点です。
- デジタル”だからこそ”の視点
-
サービスをネットワークを通じて提供することによるサービサイジングや、プラットフォームによるマルチサイドビジネスなど、デジタルだからこそ可能となる新たな経営戦略を模索する、という視点です。
DX成功パターンの策定
「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) によると、上記の2つの「視点」に対して、一部の経営者からは、DXについて「具体的に何をすればよいのかわからない」といった声も聞かれる としており、この対応策として、同レポートは「DX成功パターン」の策定を提唱しています。
DXの具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX成功パターン」を策定する。これを活用することにより、企業はDXの成功事例の中から自らのビジョンや事業目的の実現に資するものを選択することで、DXについての具体的な取組を推進できるようになる。
成功パターンに至る3つの戦略
DX成功パターンには、DXに向けた戦略の立案・展開にあたって前提となる「組織戦略」と「事業戦略」、「推進戦略」が含まれています。
- 経営戦略
DXの成功事例のうち、組織の観点で特徴があるものに、経経営者・IT部門・業務部門が協調して推進する、というパターンがあります。企業の方針を決めるにあたっては、このような三位一体の対話によって共通認識を形成すべきです。 - 事業戦略
「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値の創出」と、「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」という二つのアプローチを同時並行に進めることが重要です。既存事業の効率化と新事業の創出は両輪で検討すべきであり、既存事業の見直しにより産まれた投資余力を新事業の創出にあてることで、企業の競争力と経営体力を高めることが出来ます。 - 推進戦略
重点部門を見極め、小さく始めて、段階的に全社的な取組みに広げることを検討すべきです。これによって、まず重点部門で成功事例を作り出してから組織全体へ展開し、あわせて、DXを推進する上での課題を早期に明らかにしつつ対応する、というアジャイル的なDXの推進が成功への鍵となります。
DX推進の3つのステップ
企業が具体的なアクションを設計できるように、DXを「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」という3つの異なる段階に分類し、DXの取り組みの「進捗段階」を図る指標としています。
- デジタイゼーション
システム化によりアナログ・物理データのデジタルデータ化された段階 - デジタライゼーション
個別の業務・製造プロセスのデジタル化された段階 - デジタルトランスフォーメーション
組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化され、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革が達成できた段階
「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」はこちらでも解説していますのでご覧ください。

DXフレームワーク
「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) では、DXの取組領域を明らかにするために、DXの各アクションを取組領域とDXの段階に分けて整理したDXフレームワークを提唱しており、様々なDX事例をDX成功パターンとして形式化する際に用います。(下図を参照)
縦軸にデジタル化の取組領域、横軸に上記「DX推進の3つのステップ」で紹介した3段階に”未着手”を加えることで、DX推進領域を段階(フェーズ)ごとに把握できるようになり、企業はゴールとなるデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて、より具体的なアクションを検討することが可能となります。
また、目指すデジタライゼーションやデジタルトランスフォーメーションをゴールに設定した上で、そのゴールから逆算して今後の取組(アクション)を検討する際に活用されることも想定しています。

[引用元]「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) P35 より
同「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) では、製造業における業務のデジタル化をDXフレームワークで表した例をあげています。

[引用元]「DXレポート2(中間取りまとめ)」(PDF) P36 より

DX人材の配置
DX人材とデジタル人材の違い
「DX人材」と「デジタル人材」双方ともよく耳にする言葉ですが、ここでは以下の様に使い分けています。
- デジタル人材
デジタル技術に関するスキルや知識を身につけており、その技術を使って新たな価値を生み出せるさまざまな人材の総称 - DX人材
DX推進に必要なデジタル人材。デジタル技術の専門知識を有すると同時に、DXに関する基礎的な知識やスキル・マインドを身につけた人材。
デジタルスキル標準
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2022年12月に「デジタルスキル標準」をとりまとめました。2023年8月には改訂版の「デジタルスキル標準 ver.1.1」(PDF) となっています。
この資料は、ビジネスパーソン全体がDXに関する基礎的な知識やスキル・マインドを身につけるための指針である「DXリテラシー標準」、及び、企業がDXを推進する専門性を持った人材を育成・採用するための指針である「DX推進スキル標準」について構成されています。
ここでは、「DX推進スキル標準」について見ていきます。
DX推進スキル標準
DX推進スキル標準ではDX推進のための人材に必要なスキルを以下5つの人材類型で分類しています。
DXを推進する人材は、他の類型とのつながりを積極的に構築した上で、他類型の巻き込みや他類型への手助けを行うことが重要であるとしており、適切な人材をを社内外を問わず、積極的に探索する必要があります。

[引用元]「デジタルスキル標準 ver.1.1」(PDF) P69 より
5つの人材類型をさらに詳細に区分し、ロール(役割)を設定しています。
人材類型 | ロール | DX推進において担う責任 |
ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト(新規事業開発) | 新しい事業、製品・サービスの目的を見出し、新しく定義した目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する。 |
ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化) | 既存の事業、製品・サービスの目的を見直し、再定義した目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する | |
ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化) | 社内業務の課題解決の目的を定義し、その目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する | |
デザイナー | サービスデザイナー | 社会、顧客・ユーザー、製品・サービス提供における社内外関係者の課題や行動から顧客価値を定義し製品・サービスの方針(コンセプト)を策定するとともに、それを継続的に実現するための仕組みのデザインを行う |
UX/UIデザイナー | バリュープロポジション脚注に基づき製品・サービスの顧客・ユーザー体験を設計し、製品・サービスの情報設計や、機能、情報の配置、外観、動的要素のデザインを行う | |
グラフィックデザイナーブ | ブランドのイメージを具現化し、ブランドとして統一感のあるデジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデザインを行う | |
データサイエンティスト | データビジネスストラテジスト | 事業戦略に沿ったデータの活用戦略を考えるとともに、戦略の具体化や実現を主導し、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する |
データサイエンスプロフェッショナル | データの処理や解析を通じて、顧客価値を拡大する業務の変革やビジネスの創出につながる有意義な知見を導出する | |
データエンジニア | 効果的なデータ分析環境の設計・実装・運用を通じて、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する | |
ソフトウェアエンジニア | フロントエンドエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの機能のうち、主にインターフェース(クライアントサイド)の機能の実現に主たる責任を持つ |
バックエンドエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの機能のうち、主にサーバサイドの機能の実現に主たる責任を持つ | |
クラウドエンジニア/SRE | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの開発・運用環境の最適化と信頼性の向上に責任を持つ | |
フィジカルコンピューティングエンジニア | デジタル技術を活用したサービスを提供するためのソフトウェアの実現において、現実世界(物理領域)のデジタル化を担い、デバイスを含めたソフトウェア機能の実現に責任を持つ | |
サイバーセキュリティ | サイバーセキュリティマネージャー | 顧客価値を拡大するビジネスの企画立案に際して、デジタル活用に伴うサイバーセキュリティリスクを検討・評価するとともに、その影響を抑制するための対策の管理・統制の主導を通じて、顧客価値の高いビジネスへの信頼感向上に貢献する |
サイバーセキュリティエンジニア | 事業実施に伴うデジタル活用関連のサイバーセキュリティリスクを抑制するための対策の導入・保守・運用を通じて、顧客価値の高いビジネスの安定的な提供に貢献する |
人材不足の課題
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)刊行の「DX白書2023」 で、企業がDX推進を行う人材の確保が充足しているかの調査を「質」と「量」の観点で調査した結果がまとめられています。
「量」については、2022年度調査では、日本の場合、DXを推進する人材が「やや不足している」と回答した割合が33.9%、「大幅に不足している」は49.6%で調査した企業の8割以上が人材不足を意識しています。
「質」についても、人材が「やや不足している」と回答した割合が33.4%、「大幅に不足している」は51.7%で「質」と同様8割以上の企業が人材不足を意識していると言えます。
また、「大幅に不足している」が前年の2021年度と比較して20%以上増えているのは、企業のDXへの取り組みにが活発化してきたことを意味するものと思われます。

[引用元]「DX白書2023」(PDF) P21 より
また、人材をどのような方法で獲得・確保しているかという調査によると、日本の場合日米ともに「社内人材の育成」が55%ほどを締めていますが、これと変更して、今後は米国のように「特定技術を有する企業や個人との契約」、「リファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手法)」など外部からの格闘・確保も積極的におこなうべきとしています。

[引用元]「DX白書2023」(PDF) P23 より
まとめ
今回も冒頭の質問についての回答をまとめとします。
- DXはどのように進めていくの?
-
DX推進を以下の4段階のプロセスに分け、現状の課題を解決し、企業として新しい価値を創造するための戦略の策定とその実施を行うことが推奨されています。
- 意思決定・・・経営ビジョン・戦略策定
- 全体構想・意識改革・・・全社を巻き込んだ変革準備
- 本格推進・・・社内のデータ分析・活用
- DX拡大・実現・・・顧客接点やサプライチェーン全体への改革展開
- DX推進に必要な人材はどんなスキルの人?
-
経済産業省とIPAがとりまとめたDX推進スキル標準には、DX推進に必要な人材を以下の5つで分類しています。DXの戦略に合わせて適宜必要なスキルを保有した人材の登用が必要となります。
- ビジネスアーキテクト
DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的を実現する人材 - デザイナー
ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材 - データサイエンティスト
DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材 - ソフトウェアエンジニア
DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材 - サイバーセキュリティ
業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材
- ビジネスアーキテクト