数年前から「DX」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。特にコロナ禍でテレワークが推奨されたときに一気にこのワードが浸透したような気がします。
しかしながら、「DXとは何なの?」とか「IT化と何が違うの?」とか「結局 DX推進するメリットはなんなの?」とか質問されたとき、きちんと答えることができる人は少ないのかもしれません。(私もその一人です)
なので、今回の記事で「DX」についての概要を整理することにしました。
DXとは。DXの定義
DXの定義
「DX」は「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略であり、直訳だと「デジタル変革」という意味になります。
もともとは、2004年にウメオ大学のエリック・ストルターマンが論文 “Information Technology and the Good Life.”の中で、Digital Transformation を「情報技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義づけしたのが最初と言われています。
日本の経済産業省のガイドラインではDXを以下のように定義しており、今、多くの企業や組織が取り組んでいるDXの推進(以下 DX推進)はこの定義を指しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
[引用元] 経済産業省 「デジタルガバナンス・コード2.0」 (PDF形式)より
DX推進が注目された背景
2025年の崖
私が初めて「DX」というワードを意識したのは「2025年の崖」という危機感を煽るような言葉をネットやTVなどで見聞きするようになったと記憶しています。
「2025年の崖」は経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」 (PDF形式)に登場するキーワードです。
レポートでは「2025年の崖」を以下のように記載しています。
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・
- 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされていることより、複雑化・ブラックボックス化
- 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。
※テキスト文字の色(赤)も原文のまま引用
このレポートで経済産業省は、DXへの取り組みの重要性に言及した上で、DX推進が進まない現状では、2025年までに、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システム(21年以上稼働)が全システムの6割を超える状態となり、既存システムを知るIT人材の引退や、導入数の多いSAP社の基盤システム SAP/ERPのサポート終了等によるリスクの高まりに伴う経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼると推定しています。
DXとIT化の違いについて
IT化、デジタル化とは
ITとはInformation Technologyの略であり、コンピューターとネットワーク技術の総称です。
「IT化」という場合、「従来のアナログ的な作業をデジタル化して便利にする」ことを指します。
業務の基本的な性質(入力情報や最終的な目的)は変わりませんが、IT化により業務の時間短縮や生産性の向上による多大な恩恵を得ることができます。
例えば、手書きの書類を見ながら電卓で計算していた経理業務を、パソコンを導入して会計ソフトで業務が効率よく行えるようになったという場合も「IT化」と言えます。
「IT化」と共に「デジタル化」というワードもありますが、基本的は同義語です。
IT化はDXの手段
「IT化」、「デジタル化」はDX実現の手段であると言えます。よって「IT化」を行ってもDXを達成したことにはなりません。
「DX」は「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」であり、このトランスフォーメーション(変革)の部分が大きな意味を持ってきます。
以下に「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」ことを目的とするDXを推進する3つのステップを例に挙げます。
既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること。
例えば、会社内の特定の工程における効率化のためにデジタルツールを導入するなど。
・書類のペーパーレス化、オンライン会議システムの導入、ツールのデジタル化など部分的なIT化)
組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること。
例えば、自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化するなど。
・IT化(RPAによる作業自動化、販売管理ソフトやセキュリティ監視システム導入、IoT機器の導入など)
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。
それぞれのステップについての詳細は経済産業省の「DXレポート2 中間取りまとめ(概要) 」(PDF形式)を参照

DXを推進するメリットとデメリット
DXを推進することは企業・組織にとって数多くのメリットがあります。また、デメリットもありますので、双方を理解することがDX推進成功のポイントとなります。
DX推進のメリット
- 業務改善と生産性の向上が期待
企業内の業務プロセスのデジタル化することで、業務改善や生産性の向上を実現します。
「作業時間の短縮」、「作業人員の削減」、「作業の優先度を可視化」、「ヒューマンエラーの減少」などは全てコスト削減にも繋がります。 - 新たな商品やサービスの創出
DX推進で行う各種データのデジタル化により、これまで以上に情報の分析・解析が可能となります。
蓄積されたデジタルデータは、刻々と変化する顧客のニーズを可視化し把握することに役立ちます。
このようにデジタルデータを活用することで、今まで見えなかったニーズを素早くキャッチし、新たな商品やサービスの創出につなげることが期待できます。 - レガシーシステムからの脱却
日本企業は旧式となった現行システム(レガシーシステム)の維持管理のためにIT予算の約8割のコストをあてており、これが「2025年の崖」への危惧となっています。
DX推進の一環として、システムを刷新しレガシーシステムからの脱却することは、将来的な維持管理コストの削減につながる重要な取り組みだといえます。 - 働き方改革の推進につながる
業務改善と生産性の向上は、長時間労働の削減につながります。
また、勤怠管理システムやコミュニケーションツール、リモート業務が行えるツールの導入により、テレワークが行える環境が整備されれば、働き方の選択肢が増え、従業員のモチベーション向上にも期待ができます。 - BCP(事業継続計画)の充実が期待
テレワーク環境整備による働き方の変化は、BCP(事業継続計画)の充実にもつながります。
従業員が一定の場所ではなく、分散してリモート業務を行うことで、地震や台風などの災害時に業務停止状態に陥るリスクを回避しやすくなります。
また、新型コロナウィルスの拡大のようなパンデミックへの対応といった観点からも、感染者との接触のリスクを回避可能なテレワークはBCPにより有効な戦略と言えます。
DX推進のデメリット
- コストがかかる
デジタル化を継続的に行うには、初期費用やランニングコストがかかります。費用の状況は状況によって様々ですが、既存システム再構築や、新たな業務システムの導入にはエンジニアの人件費を含め相当なコストが必要となります。また、システム運用を行うためのランニングコストも必要でしょう。
そのため、資金に余裕の無い企業にとって、大掛かりなDX推進への投資は現実的に難しいかもしれません。 - 長期的な取り組みが必要
近年から導入がはじまったDX推進は、ほとんどの企業で他探りの状況であり、最適解が用意されているわけではありません。その効果が見えるまでは試行錯誤を繰り返す必要があり、中長期的な目線で取り組む必要があります。
すぐに効果が出ると短期的な目線で取り組んだ場合、途中停滞が発生した際に社内のDX推進へのモチベーションが一気に低下することも考えられます。 - レガシーシステムからの脱却への反発
DXは「変革」を意味していますが、これまで慣れ親しんだ業務プロセスの変更に対して組織内から難色を示す声が上がることも考えられます。
DX推進者は、既存システムの課題を十分に理解した上で新たなシステムを構築し、従業員がスムーズに移行できるフローを整える必要があります。また、経営者はDXが企業の生存競争のために不可欠な取り組みであることを従業員にしっかり説明する必要があります。
DXの成功例
DX銘柄
DXを挿入した企業は、実際にどのような取り組みを行って、どのような成果をあげているのでしょうか。他の企業がどのような観点でDX推進を行っていったのかを知ることはとても大切なことだと思います。
経済産業省では、東京証券取引所の上場企業から優れたDXの取り組みをしている企業を「DX銘柄」などとして発表しており、非常に参考になる資料も公開しています。
上記サイトの「DX銘柄2022」選定企業レポート (PDF形式)に、様々なジャンルの企業が取り組んだDXの内容が紹介されています。是非ご覧ください。
まとめ
DXについて少し理解できたでしょうか?冒頭で挙げた質問の回答を私なりに考えてみましたので、これを「まとめ」とします。
- DXとはなんですか?
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「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略で、企業がデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。
- IT化と何が違うのですか?
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「IT化」はDX実現の手段です。「DX」が、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革を行い、新たなビジネスモデルを創出することを目的としたときに、「IT化」により自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化することを手段として用います。
- 結局 DX推進するメリットはなんなの?
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企業内の業務プロセスのデジタル化することで、業務改善や生産性の向上、コスト削減を実現します。また、テレワークなどの環境を整えることにより働き方改革が進み、従業員のモチベーションが向上します。テレワークのような働き方改革は、災害やパンデミックなどの非常時におけるBCP(事業継続計画)にも有効です。
次回は DXの進め方やDX推進に必要なデジタル人材について記事にしたいと思います。
